この記事では、柔道・合気道・少林寺拳法・八光流柔術の「受け身」の違いを比較しながら、日常生活にも役立つ「受け身」の考え方を解説します。
咄嗟の場面で身を守る「受け身」
武道・武術を学んでいて人生で役立ったといわれることの一つとして、「受け身がうまくなった」ことがよく挙げられます。
例えば、つまずいて勢いよく転倒した時や、交通事故で跳ね飛ばされた時などに、ほぼ無傷で済んだり、最小限の怪我に抑えることができたというケースを聞きます。
誰でも子ども時代は、体が軽くて柔軟です。
そのうえ、遊びの中で床を転がったり、体育のマット運動で前転や後転を行うため、つまずいたり滑ったりして転んでも、多少の擦り傷で済む場合が多かったのではないでしょうか。
しかし大人になると、普段の生活の中で床を転がることはほとんどなくなります。さらに運動神経が衰えて体も重く固くなっている場合が多く、転倒すると手足を骨折したり、頭部を打ちやすくなるでしょう。
そして高齢になると骨密度も低くなるため、転倒すると骨折のリスクが一層高まってしまうのです。
しかし、柔道、合気道、少林寺拳法、柔術などの武道・武術を続けていると、咄嗟の場合も「受け身」の技術が身を守ってくれます。
すべての武道・武術に共通する「受け身」のポイントは、おおよそ次の三つでしょう。
・顎を引き、臍を見るようにして体を丸め、絶対に頭を打たない(背骨なども)。
・力んだりして全身を固めずに、柔らかく着地する。
・床(畳)と接地する身体箇所は丈夫な部位にして面積を広くする、あるいは滑らかに移動させて衝撃を分散させる。
では、柔道、合気道、少林寺拳法、柔術などの「受け身」は、どれも同じなのでしょうか。
いえ実は、それぞれの「受け身」は目的や考え方が若干異なっているようです。
一つずつ見ていきましょう。
柔道の受け身は力強く豪快
日本人男性なら、中学や高校の体育の授業で柔道を学んだ方は多いと思います。
その際、まず最初に習うのが受け身でしょう。頭部を畳に強打する重大な事故を防ぐためには、非常に重要な技術だからです。
そのため、最も多くの人に馴染みがあるのが、柔道の受け身ではないでしょうか。
柔道の基本的な受け身は、前受け身、前回り受け身、後ろ受け身、横受け身などです。
そして、柔道で特徴的なのは、受け身の最後に手のひらから前腕の辺りで畳を「バン!」と強く打つことです。これで体幹への衝撃を減らし、体勢を安定させます。
また、一対一で組み合う試合競技が前提なので、すぐに回転して立ち上がり、周囲の敵にも対応するという概念は必要がないといえます。
武道の試合については、記事「なぜ、八光流柔術では試合を行わないのか?」に詳しく書いています。
柔道は畳の上で行うため、上記のような受け身は非常に合理的かつ最適な方法だと思われます。しかし、もしも硬い板の間やアスファルトの上で行ったなら、相当な痛みがあるかもしれません。
合気道の受け身は美しく芸術的
そして合気道の受け身は、本当に華麗で美しい動きです。袴姿で動く華々しさも加味され、受けがひらりと宙を舞う姿は、見る者を魅了するほどです。
特に飛び受け身は、高い位置から猫のように滑らかに身体を回転させ、柔らかく床へ着地させる高度な技術といえます。
合気道も基本的には畳の上で稽古するため、高さが出る飛び受け身も行いやすいと思います(熟練者なら硬い床でも可能でしょう)。
また、「合気」という言葉が象徴するように、取りの人と受けの人は「気を合わせる」ことが大事だとされます。
そのため合気道では、受けの人(受け身をする人)も高度な技術レベルが求められるのだと思います。
そして、受け身が上手な人を投げる時、取りの人は本当に気持ちよく技ができるのでしょう。
それはある意味では、受けの人が完全な素人では成立しづらい技法体系のようにも思えます。これは、双方が切磋琢磨しながらレベルアップを目指す稽古体系だからかもしれません。
いずれにしても、合気道の受け身は、各種武道の中でもトップレベルといえるのではないでしょうか。
合気道と八光流柔術の全般的な違いについては、記事「合気道と八光流柔術は何が違うのか?」をご参照いただければと思います。
少林寺拳法の受け身は鋭くキレがある
少林寺拳法の受け身は、合気道の受け身と少し似ているものの、キレの良さは圧倒的です。
相手の突き蹴りの打撃技を捉えてから、一瞬で関節を極めながら投げてしまいます。その柔法のスピード感溢れる演武は、受け身の巧みさがあってこそ成立するのでしょう。
そして特徴的なのは、このような受け身を板の間でやっていることでしょう。板の間を基本としているからこそ、路上や屋内の硬い床でも使える受け身が身につきやすいと思われます。
その方法として、飛び受け身では片足の裏から着地してすぐに身を翻して素早く衝撃を分散させる技法も使っているようです。
このような少林寺拳法の受け身もまた、合気道と並び、超ハイレベルといっていいでしょう。
八光流柔術の受け身は安全第一ですぐできる
上記の柔道、合気道、少林寺拳法と比較すると、八光流柔術の受け身は、かなり地味かもしれません。
激しく取っ組み合って闘うこともなければ、演武で観客に魅せる必要もないため、必然的にそのようになっているわけです。
それは、誰でもすぐに身につけられ、怪我のリスクを最小限にした「超実用志向の受け身」といえます。
具体的には、まず余計な力を抜いて体を固めないことです。
そして、横や後ろへの受け身なら、まず安全のために腰を落として頭も低くし、それから音を立てないように軟着陸して転がります。
前への回転受け身でも、なるべく飛ばず、音を立てないように丸くなって回ります。
これは、多くの人にとって、いざという時に硬い床やアスファルトでも使いやすく、最大限に安全性を重視した方法でしょう。

また、八光流柔術は護身武道のため、攻める側(掛け)は暴漢という想定です。
暴漢は武術経験者とは限らず、むしろ素人の荒くれ者というほうが前提条件に適するでしょう。
そう考えると、攻める側(掛け)に高度な飛び受け身が必要となる技法体系だと、護身武道である八光流柔術には不自然といえるのです。
結果として、八光流柔術の受け身は見栄え的には至って地味ですが、早く習得でき、実用的で安全な方法だといえます。
対人の護身だけでなく日常の事故から身を守るためにも、ぜひ咄嗟に使える自然な受け身を習得しておくことをお勧めします。
八光流柔術の魅力は、実際に身体で体験してこそ伝わる部分も多くあります。
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